5分でわかる『転職の思考法』:置かれた場所で咲くのではなく咲く場所を探せ

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著者、北野唯我氏はハイクラス対象の人材ポータル「ワンキャリア」の編集長。
 
本書について、あとがきでこう述べています。
 
「なぜ、この本を書いたのか?」と問われたら、私はこう答えます。
全ての働く人が「いつでも転職できる」という交渉のカードを持てば、結果、今の職場も絶対によくなると確信しているから。

 

本文はストーリー仕立てで、主人公の青年が凄腕コンサルタントに転職の思考法を教わるまでを追う形式になっていますが、その作中でもコンサルタントがこう話します。
 
『辞められない』という思い込みの檻の中に閉じ込められたら、どんな人間も必ず自分に小さな嘘をつくことになる
 
勘違いするな。いつ辞めてもいいや、と中途半端に向き合うんじゃない。選択肢を持った上で、対等な立場で相手と接するんだ。
 
選択肢を失った瞬間、仕事は窮屈になる。

 

このように。「選択肢」を持つことが強みになると説かれており、本文中ではその選択肢を獲得するための「思考法」が描かれます。
 
タイトルを一見すると転職のハウツー本のように思えてしまいますが、本書で語られているのはキャリア形成の考え方。転職を考えていなくても、会社に身を置く組織びとであれば身につけておいて損はないと思いました。
 

転職の思考法の鍵は「ポジショニング」

 
さて、転職の思考法とは、どういったものになるのでしょうか。
これも作中のコンサルタントが語るところを引用すると、
 
「特別な才能を持たないほとんどの人間にとって、重要なのは、どう考えても、どの場所にいるか。つまりポジショニングなんだ。そしてポジショニングは誰にでも平等だ。なぜなら、思考法で解決できるからな」
 
特別な才能を持たない我々にとっては、どこにいるかこそが重要だと言います。では、咲くべき場所とはどこなのかというと、本文最後に、こうした結びの言葉が書かれています。
 
「伸びている市場に身を置け。そのうえで、自分を信じろ」
 
つまり、伸びている市場にポジショニングすることが転職の思考法のコアになると語られます。それを踏まえた上で、どう会社を選ぶかについては、3つの軸が提示されます。
 
  • マーケットバリュー
  • 働きやすさ
  • 活躍の可能性
 
マーケットバリューという言葉は作中に何度も出てくるキーワードです。
 
自分が身を置くべき伸びている市場(マーケット)において、自身が発揮できるバリュー、すなわちマーケットバリューを理解することこそが肝要であると。
 
それはそうですよね。どこに身を置くのかを考えるためには、自分がどこであれば実力を発揮しバリューを提供し対価を得ることができるのかを理解して置く必要があります。
 

自分のマーケットバリューの測り方

 
それでは、いかに自分のマーケットバリューを理解するのか?マーケットバリューは3つのポイントに分類されます。
 
  • 技術資産
  • 人的資産
  • 業界の生産性
 
技術資産は、自分が持つ専門性と経験です。文中では、「大事なのは、他の会社でも展開できるかどうか?」と言われます。つまり、汎用化できる自分の武器となる資産と読み替えて良さそうです。
 
専門性とはほぼ職種とニアリーイコールで、例えば、「法人営業の新規開拓のスキル」がこれに当たります。
経験とは職種に紐づかない技術で、例えば「プロジェクトリーダーの経験」がこれに当たります。
 
続いて人的資産は、仮に転職したとして、「あなた自身に」仕事をくれるような人の繋がりのこと。人脈と読み替えてOKでしょう。
 
補足的に、キャリアの中でこれらの資産を身につけていくタイミングとして、文中では「20代は専門性、30代は経験、40代は人脈」と語られます。
 
即ちは、経験は専門性に代え難いと。専門性は誰でも学べば獲得できるが、経験は汎用化されにくい技術になりうる、と。
 
得てして、面白い仕事は専門性の高い人間回ってくることになり、結果として得難い経験が身につきます。そういった意味で、まずは専門性ありきで身に付けることがキャリアの順番として「得」なのです。
 
最後に、もっとも重要視されるのが、最後の業界の生産性です。
 
技術資産と人的資産をいかに高く装備していようと、そもそもの産業を間違ったらマーケットバリューは絶対高くならないと断言されています。マーケットバリューは業界の生産性にもっとも影響を受ける、とも。
 
つまり、マーケットバリューを高くするには伸びている市場を見極めることがもっとも重要である、ということになります。ここで、「どの場所にいるか(ポジショニング)がもっとも大事」という話に繋がってくるわけですね。
 

身を置くべき、「生産性の高い業界」をどう見極めるか

 

業界の生産性について、文中では「エスカレーター」と表現されています。
上りのエスカレーターのように、放っておいても勝手に売り上げが伸びていくような業界が、生産性の高い業界であると。
一方、下りのエスカレーターのように利益を削って競合がシェアを奪い合っているような業界を、生産性の低い業界と表現されています。
 
自分が登っていくことを考えたとき、上りのエスカレーターに乗るべきか下りのエスカレーターに乗るべきかは自明ですね。
 
では、どの業界が「上りのエスカレーター」に当たるのか?
それを見極めるためには仕事のライフサイクルを見よと説明されます。
全ての仕事にはフェーズがあり、いつか終わりを迎えます。そのフェーズを見るための軸は、「椅子の数の多さ(雇用の数)と代替可能性の高さ」です。
 
文中では各フェーズをこう名付けています。
 
①ニッチ→②スター→③ルーチンワーク→④消滅
 
仕事が汎用化されきって、人的資源を投下すればなんとかなるような状態(ルーチンワーク)になっている場合には、業界の生産性が低く極まっている状態であり、一方で、椅子(雇用)が少なく、代替可能性が低いニッチな市場こそ、伸びていく市場であると語られます。
 
ニッチの業界は、今でいうと人工知能やIoTの業界になるでしょうか。
 

「最強の思考法」ピボット型のキャリアとは

 
さて、ここまでみてきたように、転職の思考法とは、自分の持っている資産を伸びている業界に投下することだと言えそうです。そして、伸びている業界とは、仕事のライフサイクルの中で、雇用が少なく代替可能性が低い業界のことであるということでした。
 
こうなると、一つのジレンマが生じます。人生100年時代と言いますが、仕事人生は多くの人にとって少なくともあと数十年は続きます。一方で、仕事にはライフサイクルがある。
 
当然のことですが、ずっと伸び続ける業界はなく、永遠に伸び続ける会社は存在しません。つまりは、まさにいま伸びている業界であれ、コモディティ化ルーチンワークのフェーズになることが、半ば約束されているのです。
 
よって、一度転職して伸びていく業界に身をおいたとしても安心はできないということになります。それでは、どうすればいいかというと、文中では「ピボット型のキャリア」が提唱されます。
 
つまり、業界の賞味期限が切れる前に新たな強みを手に入れ、軸となる強みを掛け合わせることであると。
自分の強みを正しく認識し、それを軸として、周期的に伸びている業界に身の置き場所をピボットすることこそが、「最強」であると説明されています。
 
絶対やってはいけないことが、10年前と全く同じサービスを同じ顧客に選ぶ会社を選ぶことであるとも言われています。
 
ここで意識しておきたい重要なポイントは、転職を単なる職場の変更ではなく、大いなるキャリア形成の中で、いま自分がどこに身を置くのが最適であるのかを見極めることだと言えるでしょう。
 

感想

 
本文中はストーリーで展開しましたが、中盤若干冗長でした。ストーリー仕立ては入って来やすい反面、読み物としては退屈になりがちですね。
 
「このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む」というタイトルは実は秀逸で、そんなこと思わない人はこの世の中誰一人としていないでしょう。つまり本書の対象は、転職したい人ではなく、著者があとがきでいうように「全ての働く人」であると示唆しているんですね。
 
この記事では割愛していますが転職エージェントの活用法や注意点、面接で聞くべきポイントなども紹介されており転職の指南書として使えそうです。
 
また、文中で語られていた、仕事を面白がれる「to do型とbeing型」について非常に示唆に富んだ内容だったので、機会があれば別の記事として紹介したいと思います。